名古屋地方裁判所 平成6年(わ)1708号・平6年(わ)1711号・平6年(わ)1841号・平6年(わ)1842号・平6年(わ)1843号 判決
主文
被告人出口こと髙橋信之を懲役二年六か月及び罰金三〇〇〇万円に、同奥谷歩を懲役二年及び罰金一三〇〇万円に、同雁瀬章夫を懲役二年及び罰金二二〇〇万円に、同新宅俊哉を懲役一年八か月及び罰金四〇〇万円に処する。
被告人らがその罰金を完納することができないときは、それぞれ五万円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。
理由
(犯罪事実)
第一 被告人四名は、いわゆるセット打法と称する特定の遊技方法により遊技を行った場合入賞を容易にするための特別装置(役物)の作動を著しく容易にする機能が追加された不正ロムがぱちんこ遊技機及びアレンジボール遊技機に装着されていることを知りながら、不正ロムが装着されたぱちんこ遊技機及びアレンジボール遊技機から、セット打法を行うことにより遊技球を窃取しようと考え
一 被告人出口こと髙橋信之、同奥谷歩、同雁瀬章夫は、別紙一犯罪事実一覧表記載のとおり、共犯者欄記載の水野晶充らと共謀の上、平成七年一二月一七日ころから同月二九日ころまでの間、前後二三回にわたり、名古屋市港区名港一丁目二〇番六号ぱちんこ店シンザンホール名港店(株式会社シンザンホール経営、代表取締役橋元勇気)、愛知県高浜市呉竹町六丁目一番二五号ぱちんこ店ダルマ高浜店(中部産業株式会社経営、代表取締役齋藤正男)及び名古屋市南区港東通一丁目二番四号ぱちんこ店丸林会館(有限会社丸林会館経営、代表取締役林正雄)において、セット打法を行って、前記三会社所有の遊技球合計三三万八〇〇〇個(時価八四万五〇〇〇円相当)を窃取した。
二 被告人出口こと髙橋信之、同奥谷歩、同雁瀬章夫は、別紙二犯罪事実一覧表記載のとおり、局英彦及び共犯者欄記載の堀場一男らと共謀の上、平成七年一二月一八日ころから同月二六日ころまでの間、前後四回にわたり、名古屋市守山区苗代一丁目一四番八号ぱちんこ店パーラージャンボ(有限会社日本ヘルシー観光経営、代表取締役林田耕作)において、セット打法を行って、有限会社日本ヘルシー観光所有の遊技球合計三万四四〇〇個(時価八万六〇〇〇円相当)を窃取した。
三 被告人新宅俊哉は、別紙三犯罪事実一覧表記載のとおり、共犯者欄記載の中山昇らと共謀の上、平成八年三月三日ころと、同月四日ころの二回にわたり、前記ぱちんこ店丸林会館において、セット打法を行って、有限会社丸林会館所有の遊技球合計二万個(時価五万円相当)を窃取した。
四 被告人新宅俊哉は、畠中政幸、八重和秀と共謀の上、平成八年三月六日ころ、前記ぱちんこ店丸林会館において、セット打法を行って、有限会社丸林会館所有の遊技球合計一万〇四〇〇個(時価二万六〇〇〇円相当)を窃取した。
第二 被告人四名は、ぱちんこ攻略グループを結成し、第一記載のセット打法機能が追加された不正ロムが装着されたぱちんこ遊技機及びアレンジボール遊技機の情報を得て、セット打法を行うことにより多額の利得を得ていたものであるが、それぞれ自己の所得税を免れようと考え、無記名の割引債券を購入するなどの方法により所得を秘匿した上
一 被告人髙橋信之は
1 平成六年分の実際の総所得金額が一億四〇九七万一一二三円であったのに、所得税の納期限である平成七年三月一五日までに愛知県刈谷市神明町三丁目五〇一番地所轄刈谷税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで納期限を徒過させ、不正の行為により、平成六年分の所得税六三七一万一五〇〇円を免れた。
2 平成七年分の実際の総所得金額が一億六一三一万九三一八円であったのに、平成八年三月四日、前記刈谷税務署において、同税務署長に対し、平成七年分の総所得金額が五九〇万円で、これに対する所得税額が三六万〇六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、不正の行為により、同年分の正規の所得税額七三六四万五〇〇〇円と申告税額との差額七三二八万四四〇〇円を免れた。
二 被告人奥谷歩は
1 平成六年分の実際の総所得金額が四九六六万六三六二円であったのに、平成七年三月一四日、前記刈谷税務署において、同税務署長に対し、平成六年分の総所得金額が三八四万円で、これに対する所得税額が一六万〇七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一八〇五万一〇〇〇円と申告税額との差額一七八九万〇三〇〇円を免れた。
2 平成七年分の実際の総所得金額が九七七九万〇二一七円であったのに、平成八年三月一三日、前記刈谷税務署において、同税務署長に対し、平成七年分の総所得金額が二〇四万四八四四円で、これに対する所得税額が零円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、不正の行為により、同年分の所得税額四一七〇万六〇〇〇円を免れた。
三 被告人雁瀬章夫は
1 平成六年分の実際の総所得金額が一億一八七二万五九四八円であったのに、所得税の納期限である平成七年三月一五日までに愛知県半田市宮路町五〇番地の五所轄半田税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで納期限を徒過させ、不正の行為により、平成六年分の所得税五三二七万二〇〇〇円を免れた。
2 平成七年分の実際の総所得金額が一億一三四一万一四三三円であったのに、所得税の納期限である平成八年三月一五日までに前記半田税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで納期限を徒過させ、不正の行為により、平成七年分の所得税五〇二〇万一五〇〇円を免れた。
四 被告人新宅俊哉は、平成七年分の実際の総所得金額が四五四〇万八二一一円であったのに、所得税の納期限である平成八年三月一五日までに前記刈谷税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで納期限を徒過させ、不正の行為により、平成七年分の所得税一五七九万四〇〇〇円を免れた。
(証拠)カッコ内の甲乙の番号は証拠等関係カードの検察官請求証拠番号を示す。
被告人髙橋信之、同奥谷歩、同雁瀬章夫、同新宅俊哉について
全事実
一 被告人髙橋信之(乙2から6、8、32、33、35、36、38、55、56)、同奥谷歩(乙10から16、41、42)、同雁瀬章夫(乙18、19、43、44、46、49)、同新宅俊哉(乙21、26、27、29、30、51、52、54)の検察官調書
一 沓名香緒里(甲144)、局英彦(甲148から150)の検察官調書謄本
一 捜査報告書(甲153、154)
一 写真撮影報告書(甲155)
被告人高橋信之、同奥谷歩、同雁瀬章夫について
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号1、2、6、9、11、16、17の事実
一 亀谷一裕(甲6)、上原幹雄(甲7)の警察官調書
一 実況見分調書(甲3)
一 履歴事項全部証明書(甲2)
一 差押てん末書謄本(甲4)
一 鑑定書(甲5)
一 被害届(甲1)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号5、13、14、18、21、22の事実
一 板倉秀雄の警察官調書(甲13)
一 実況見分調書(甲10)
一 登記簿謄本(甲9)
一 領置てん末書謄本(甲11)
一 鑑定書謄本(甲12)
一 被害届(甲8)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号3、4、7、8、10、12、15、19、20、23の事実
一 後藤雄二の検察官調書謄本(甲19)、警察官調書(甲21)
一 林正雄の警察官調書(甲20)
一 実況見分調書(甲16)
一 履歴事項全部証明書(甲15)
一 差押てん末書謄本(甲17)
一 鑑定回答書謄本(甲18)
一 被害届(甲14)
第一の一の全事実
一 被告人髙橋信之の検察官調書(乙7)
一 捜査報告書謄本(甲22)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号1の事実
一 水野晶充の検察官調書謄本(甲23、24)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号2、3の事実
一 今井清己の検察官調書謄本(甲25、26)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号4の事実
一 荒木孝二の検察官調書謄本(甲27、28)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号5、6の事実
一 水上浩実の検察官調書謄本(甲29)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号7の事実
一 近藤剛史の検察官調書謄本(甲30)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号8の事実
一 内田邦治の検察官調書謄本(甲31)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号9の事実
一 瀬口憲一の検察官調書謄本(甲32、33)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号10の事実
一 安藤広樹の検察官調書謄本(甲34、35)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号11、12及び第一の二、別紙二犯罪事実一覧表番号4の事実
一 田中聡の検察官調書謄本(甲36、37)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号13及び第一の二、別紙二犯罪事実一覧表番号3の事実
一 佐藤誠の検察官調書謄本(甲38)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号13の事実
一 佐藤誠の検察官調書謄本(甲39)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号14及び第一の二、別紙二犯罪事実一覧表番号2の事実
一 北原達也の検察官調書謄本(甲40)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号15の事実
一 本田雅宣の検察官調書謄本(甲41)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号16から18の事実
一 喜田菊男の検察官調書謄本(甲42)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号17の事実
一 喜田菊男の検察官調書謄本(甲43)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号19の事実
一 新家幸治の検察官調書謄本(甲44)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号20、21の事実
一 濱野勝也の検察官調書謄本(甲45)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号21の事実
一 濱野勝也の検察官調書謄本(甲46)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号22の事実
一 鈴木廣の検察官調書謄本(甲47、48)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号23の事実
一 深見隆之の検察官調書謄本(甲49から51)
第一の一、別紙一犯罪事実一覧表番号1から4、9から13、17、21から23及び第一の二、別紙二犯罪事実一覧表番号2、4の事実
一 鈴木英貴の検察官調書謄本(甲52)
第一の二の全事実
一 被告人髙橋信之(乙57)、同奥谷歩(乙61)、同雁瀬章夫(乙62)の検察官調書
一 大川雅司(甲132)、臼井宏(甲133)の警察官調書
一 写真撮影報告書(甲128)
一 履歴事項全部証明書(甲127)
一 差押てん末書謄本(甲129)
一 「捜査関係事項照会書に関するご報告」と題する書面(甲131)
一 被害届(甲126)
第一の二、別紙二犯罪事実一覧表番号1、3の事実
一 野口修一の検察官調書謄本(甲137から139)
第一の二、別紙二犯罪事実一覧表番号1の事実
一 堀場一男の検察官調書謄本(甲134から136)
第一の二、別紙二犯罪事実一覧表番号2、4の事実
一 鈴木英貴の検察官調書謄本(甲141)
第一の二、別紙二犯罪事実一覧表番号2の事実
一 北原達也の検察官調書謄本(甲140)
第一の二、別紙二犯罪事実一覧表番号3の事実
一 佐藤誠の検察官調書謄本(甲142)
第一の二、別紙二犯罪事実一覧表番号4の事実
一 田中聡の検察官調書謄本(甲143)
被告人髙橋信之について
第二の全事実
一 被告人髙橋信之の検察官調書(乙34)
第二の一の全事実
一 被告人髙橋信之の検察官調書(乙37)
一 出口照美(甲83)、髙橋直美(甲84)の検察官調書
一 天野雅之(甲85)、岩月静雄(甲86)の大蔵事務官調書謄本
一 査察官調査書(甲69から80)
第二の一、1の事実
一 脱税額計算書(甲151)
一 証明書(甲81)
第二の一、2の事実
一 脱税額計算書(甲152)
一 証明書(甲82)
被告人奥谷歩について
第二の二の全事実
一 被告人奥谷歩の検察官調書(乙39、40)
一 奥谷恵子の検察官調書(甲101)
一 査察官調査書(甲90から98)
第二の二、1の事実
一 脱税額計算書(甲88)
一 証明書(甲99)
第二の二、2の事実
一 脱税額計算書(甲89)
一 証明書(甲100)
被告人雁瀬章夫について
第二の三の全事実
一 被告人雁瀬章夫の検察官調書(乙45、47、48)
一 雁瀬園恵(甲113)、雁瀬幸治郎(甲114)の検察官調書
一 査察官調査書(甲105から112)
第二の三、1の事実
一 脱税額計算書(甲103)
第二の三、2の事実
一 脱税額計算書(甲104)
被告人新宅俊哉について
第一の三の全事実
一 被告人新宅俊哉の検察官調書(乙23から25)
一 後藤雄二の検察官調書謄本(甲58)、警察官調書謄本(甲60)
一 林正雄の警察官調書謄本(甲59)
一 実況見分調書謄本(甲55)
一 履歴事項全部証明書謄本(甲54)
一 差押てん末書謄本(甲56)
一 鑑定回答書謄本(甲57)
一 被害届謄本(甲53)
第一の三、別紙三犯罪事実一覧表番号1の事実
一 吉川明人(甲61)、中山昇(甲62)の検察官調書謄本
第一の三、別紙三犯罪事実一覧表番号2の事実
一 畠中政幸(甲63、64)、葛島哲哉(甲65)の検察官調書謄本
第一の四の事実
一 被告人新宅俊哉の検察官調書(乙64)、警察官調書(乙63)
一 畠中政幸(甲146)、八重和秀(甲147)の検察官調書謄本
一 畠中政幸の警察官調書謄本(甲145)
第二の四の事実
一 被告人新宅俊哉の検察官調書(乙50、53)
一 新宅千春の検察官調書(甲124)
一 新宅笑子の大蔵事務官調書謄本(甲125)
一 査察官調査書(甲117から123)
一 脱税額計算書(甲116)
(法令の適用)
罰条 第一の行為 刑法六〇条、二三五条
第二の行為 所得税法二三八条
刑種の選択(第二の罪) 懲役及び罰金の併科刑
併合罪の処理 懲役刑につき刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(髙橋、奥谷、雁瀬について、刑及び犯情の最も重い第一の一別紙一犯罪事実一覧表番号18、新宅について第一の三別紙三犯罪事実一覧表番号2の各罪の刑に加重)
髙橋、奥谷、雁瀬の罰金刑につき四八条一項、二項、新宅の罰金刑につき四八条一項
労役場留置 刑法一八条
(弁護人の主張に対する判断)
被告人髙橋の弁護人は、所得税法違反について、犯罪行為が発覚する可能性が高い場合は、被告人に所得の申告義務はなく、期待可能性もないなどと主張する。
しかし、犯罪行為による所得であっても、所得がある以上申告義務はあり、所得の申告はその原因となる犯罪行為の告知を直接に求めるものではなく、また申告納税制度の目的からも、これが黙秘権の保障に触れるものとはいえず、正当な申告が期待不可能ともいえない。
また、同弁護人は、窃盗の被害額がぱちんこ玉の換金を前提に算出されていることをも問題とするが、本件窃盗がぱちんこ玉の換金を前提に行われた犯行であり、現にその額で換金されており、ぱちんこ玉の貸与額はこれを上回っていることなども考えれば、換金額を基に被害額を算出することに問題はない。
(量刑事情)
一 犯行の経緯・態様等
1 被告人出口こと髙橋信之(「出口」という。)は、被告人雁瀬章夫(「雁瀬」という。)から、大阪でぱちんこ窃盗グループを結成していた局英彦(「局」という。)を紹介され、局や雁瀬の勧めで、平成五年一〇月ころ、出口を中心とし、雁瀬もその中核的メンバーとなって、名古屋でぱちんこ窃盗グループ(「出口グループ」という。)を結成した。平成五年一一月ころには、被告人奥谷歩(「奥谷」という。)が出口グループに加わり、平成六年一月ころ、雁瀬と同様に出口グループの中核的役割を務めるようになった。
2 出口グループの窃盗の手口は、次のようなものであった。すなわち、出口らが、セット打法と称する特定の遊技方法を行った場合に入賞を容易にする機能が追加された不正ロム(「裏ロム」という。)が設置された基板を入手し、ぱちんこ店の従業員に働きかけるなどして事前にぱちんこ台に組み込み、あるいは裏ロムの基板が設置されたぱちんこ台の情報を得る。出口らからその情報を知らされた「アンテナ」が、セット打法でぱちんこ遊技をして玉を出す「打ち子」(「メンバー」と称していた。)の予定を聞いて、一週間の計画を立て、打ち子をそのぱちんこ店に派遣し、打ち子は指定された日にぱちんこ店に行って指定されたぱちんこ台でセット打法によりぱちんこ玉を窃取する。打ち子は、店名、ぱちんこ台の番号、大当たりした回数、売上金等を数字化された暗号等でメモし、アンテナに電話でその暗号を報告する。そして、アンテナは打ち子からの報告をもとに売上集計表等を作成し、打ち子は、得た金のうち経費等を差し引いた額の三割を取得し、残りの七割を、毎月一〇日、二〇日、月末の精算日に、事務所等に赴いて、上納金としてアンテナに支払い、アンテナは売上集計表で額を確認して受け取る、というものであった。
3 被告人らは、犯行を円滑に進め、発覚を防ぐため、「パチプロ」や暴力団関係者など目立つ者を排除して、会社員、学生などまじめに働いている者を打ち子に選び、また、アンテナは、打ち子を派遣する際に、特定のぱちんこ店やぱちんこ台、打ち子に集中しないように配慮し、打ち子に対しては、目立つ服装を避け、地名と違うナンバーの自動車をぱちんこ店の駐車場に駐車しないようにし、窃取する玉の数にもおおよその上限を設けるなどの、細かい指示を与えていた。そして、打ち子にセット打法を習得させるため、事務所にぱちんこ台を置いて練習させ、証拠となるメモや売上集計表などは用済み後破棄していた。
4 出口グループにおいては、出口がグループを統括し、裏ロムの入手、ぱちんこ台に裏ロムを設置させる工作、売上金の管理、分配などに当たり、奥谷・雁瀬が幹部として、自らアンテナとして打ち子を配置する役割を果たすとともに、打ち子の人選・勧誘、他のアンテナ及び打ち子の管理、売上げの集計等に当たっていた。当初は雁瀬が中心であったが、その後は奥谷が中心となり、奥谷はぱちんこ台に裏ロムを設置する工作などもした。局は、裏ロムを製造して出口グループに供給し、裏ロム設置によるぱちんこ窃盗の手口、組織の形成、維持等の知識・情報を出口らに教えていた。グループ内では、出口が「社長」、局が「会長」と呼ばれていた。出口は、打ち子から上納された額から経費を差し引いた利得金を、局・出口・奥谷・雁瀬の四名で分配したが、その割合は、当初は、局・出口・雁瀬が同じで、奥谷は少なかったがその後奥谷も働きぶりを評価されて増加し、すべて均等となった後、最終的には、局・出口と、雁瀬・奥谷が同額で、局・出口が各三、雁瀬・奥谷が各二の割合となった。出口グループのアンテナは約六名、打ち子は、通常は三〇ないし四〇名程度で、多い時期には五〇名を超え、窃盗の対象となったぱちんこ店も、愛知県を中心として、三重県、福井県等の数十軒の店舗に及んでいた。
5 出口は、平成六年七月ころ、出口グループの規模が拡大し、頭打ちとなってきたことから、同様の窃盗グループを別に結成させ、裏ロムの設置情報を提供して、情報料を得ようと考えた。そこで、被告人新宅俊哉(「新宅」という。)にグループの結成を依頼し、これに応じて、新宅は、自らが主宰するぱちんこ窃盗グループ(「新宅グループ」という。)を結成した。新宅グループの窃盗のやり方等は出口グループと同様であり、利益金の分配も、出口グループ同様、打ち子三で、新宅が七の割合であったが、新宅はその取り分のうち二を自ら取得し、五を出口に情報料として支払っていた。その後、新宅グループの規模拡大に伴って、雁瀬・奥谷の収入に比べ新宅の収入が増えたため、出口は新宅への分配率を減らすなどしていた。新宅グループのアンテナは約三名、打ち子は多い時期には五〇名程度となった。
6 各被告人は、得た多額の分配金を、無記名割引債券や株式の購入に充てたり、親族名義の銀行口座を設けたり、現金のまま自宅等に保管して、所得金額を秘匿し、納税を免れていた。
二 不利な事情
1 窃盗は、被告人らが、共犯者とともに、綿密な計画のもとに、組織的、職業的に犯した犯行であり、出口・雁瀬・奥谷が窃取したぱちんこ玉は三七万二四〇〇個(九三万一〇〇〇円相当)、新宅が窃取したぱちんこ玉は三万〇四〇〇個(七万六〇〇〇円相当)と相当の量に達している。しかも、これらの犯行は被告人らが、多数の打ち子を利用して犯した一連の窃盗行為の一環としてなされたものである。前記のとおり、被告人らは犯行が発覚しないように様々な工作をしており、犯行の態様は極めて巧妙かつ悪質である。
一方、所得税法違反のほ脱額・平均ほ脱率等は、出口が一億三六九九万五九〇〇円で、九九・七パーセント、奥谷が五九五九万六三〇〇円で、九九・七パーセント、雁瀬が一億〇三四七万三五〇〇円で、一〇〇パーセント、新宅が一五七九万四〇〇〇円で、一〇〇パーセントと、多額かつ高率である。被告人らは、無記名割引債券・株式を購入し、借名口座へ入金してほ脱した所得を秘匿し、売上げを計算したノートを定期的に廃棄するなどして所得の把握を困難にする手段を講じており、態様悪質である。
2 窃盗の犯行動機は、裏ロムによるぱちんこ玉の窃盗によって多額の収入を得ようとしたことにあるが、ぱちんこ店による出玉調整の問題はあっても、被告人らの窃盗によってだれかが損害を被ることは容易に推測できることであって、動機に酌むべきものがあるとはいえない。かえって、正業につかないで、職業的に違法行為を繰り返し、利益を餌にまじめな社会生活を送っていた者をも打ち子などとして犯行に巻き込んだ点で、本件は違法性が高く、強い非難を免れない。
3 所得税法違反は、ギャンブルでもうけたものは申告する必要がない、申告すれば窃盗が発覚するなどという理由によるものであるが、出口・雁瀬・新宅は、ぱちんこで生計を立てるようになってから全く所得税の確定申告をしておらず、奥谷も適当な金額で申告するなど、いずれも納税意識が希薄であった。さらに、国税局が強制調査に着手した後も、打ち子に証拠となるメモ類の破棄を指示したり、弁護士の助言を得て、セット打法を正当な攻略方法であると弁解したり、中国人マフィアからの預り金があると主張するなどの証拠隠滅工作を行っている。
4 出口は「社長」と呼ばれて、出口グループの頂点にあり、奥谷、雁瀬はそれに次ぐ地位にあった。新宅は、新宅グループの中心であった。出口と雁瀬は、平成五年一〇月ころの出口グループ発足時から平成八年二月までの約二年四か月間、奥谷は、幹部となった平成六年一月から平成八年二月まで約二年一か月間、新宅は、平成六年七月から平成八年三月ころまで約一年八か月間、それぞれ長期間にわたり、犯行グループの中心的立場で犯行に関わった。
5 以上のほか、本件が電子機器を利用した特殊な方法による窃盗の事案であって、社会に及ぼす影響が大きいことなども考慮すると、被告人らの刑事責任はいずれも重く、実刑が相当である。
三 有利な事情
1 各被告人とも、捜査段階の途中から罪を認めるとともに、犯行を反省し、今後はまじめに生活することを誓っている。裏ロムによるぱちんこ窃盗の方法等は、基本的には局から教えられたものであり、裏ロムも局から入手していた。平成六年度、七年度の国税(本税・重加算税・延滞税)を全部納付し、平成八年度の確定申告もし、地方税についても納付し、あるいは納付するつもりであると述べている。本件で相当期間身柄拘束を受けており、奥谷・新宅については前科がなく、出口・雁瀬にも、交通関係の罰金の他には前科はない。
2 出口は、「社長」と呼ばれ、それなりの重要な役割を果たしていたが、雁瀬、奥谷に比べ、グループ内での権限、利得等にはさほど大きな差はない。平成八年度の所得税も納付し、今後はトラック運転手としてまじめに働くと述べている。実父が監督を誓っており、妻及び前妻との間でもうけた未成年の子どもを扶養すべき立場にある。奥谷は、スナック二店舗を経営している。妻が監督を誓っており、扶養すべき未成年の子どももいる。雁瀬は、一部ぱちんこ店に対して被害弁償し、平成八年度の所得税も納付している。今後は、養虫業や古本屋をしていくつもりであると述べており、妻も監督を誓っている。新宅は、一部ぱちんこ店に対して被害弁償している。妻とともに訪問販売業に携わっており、義父と妻が監督を誓い、扶養すべき未成年の子どもがいる。
四 以上の有利、不利な事情を総合考慮し、被告人らを主文の刑とした。
(求刑-髙橋につき懲役四年及び罰金四〇〇〇万円、奥谷につき懲役三年及び罰金一七〇〇万円、雁瀬につき懲役三年及び罰金三〇〇〇万円、新宅につき懲役二年六か月及び罰金五〇〇万円)
(裁判長裁判官 安江勤 裁判官 水野将徳 裁判官土屋哲夫は転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 安江勤)